現在、インドの新型ウィルス感染者数は、一日に5~6万人のペースで増加しており、8月8日にはとうとう累計感染者数が200万人を超え、米国、ブラジルに次ぎ世界第3位となりました。
インドの使い捨てマスクの年間生産数は2億4千万枚、つまりインド国民の2割弱の人が一年に一枚買う程度でしたが、3月のインドの完全封鎖以降、他の国々と同様に需要急増により一時的にマスクの供給が不足する状況となりました。従来より、インドではマスクの生産と流通は国内の中小企業によって国内需要向けに供給されていましたが、大量生産可能な機器を導入しているところはほぼ無く、一ヵ月の生産可能数は最大でも250万枚程度でした。インド全土における完全封鎖中は、マスクは生活必需品として工場稼働を許可されていましたが、交通や物流が一時的に麻痺し、材料調達ができない、従業員が工場に来れないといった困難や、州毎に異なるルールが定められたことから各州で通行証を行政から入手しなければならないといった手続きの混乱や遅れによって、一時的に供給が不足する状態となりました。

その後、完全封鎖によって大きな打撃を受けた中小企業の中でマスクの生産に生き延びる道を見つけた企業が瞬く間に業態を転換し、一斉にマスクの生産を開始しました。4月には一ヵ月の生産可能数2500万枚となり、5月にモディ首相が「自立したインド」(Aatmanirbhar Bharat/self-reliant India)キャンペーンを発表し、インドを重要な産業領域で自給自足を促し、グローバルサプライチェーンで大きなシェアを獲得しようとする政策キャンペーンが打ち出されました。
インド医療機器産業協会(the Association of Indian Medical Device Industry)が6月初旬に発表した情報によると、インドは15億枚の3層マスクの生産能力を有しており、国内需要を考慮した後の余剰生産能力は5億3200万枚。また、4層マスクについては、5,900万枚の製造能力があるとのこと。 また、医療用のN95マスクの生産能力は395万枚で、105万枚が余っている状態となりました。
さらに、医療用マスクN95を60~80ルピー(約85~113円)の低価格で生産するスタートアップ企業が登場し、最近モディ首相がそのマスクを着けていることが話題になっています。
COVID前は都市部大気汚染のひどさにもかかわらず、マスクを着けている人を見ることはまれであったインドですが、感染者急増によりマスクの着用が義務付けられ、街角でマスクを売る人をしばしば見かけるようになりました。
インドの変化の速さには今後も目が離せません。
阪口史保(インド・バンガロール在住)
※参照
https://www.investindia.gov.in/team-india-blogs/solving-supply-chain-issues-mask-manufacturing