インドにおける大気汚染や産業汚染、野焼きの課題は、いまや世界中に知られるところとなりました。首都のニューデリーをはじめインドの大都市では、大気汚染は深刻な課題であり、市民の日常生活にも大きな影響を及ぼしています。
インドでは経済成長と共に都市化が進行し、電力の供給と需要も拡大の一途を辿っています。一方で、エネルギー効率の改善および再可能エネルギーの進歩によって、電力の減少も生じているため、エネルギー消費のパターンは複雑になっています。
こちらの記事では最新エネルギー消費のデータを取り上げながら、エネルギー政策の影響を考え、今後、エネルギー源として働く「再生可能エネルギー・エネルギー効率」に関する大規模なビジネスチャンスを浮き彫りにします。
インドのエネルギー消費概況
国際エネルギー機関(IEA)の年次レポートによると、インドと共に米国と中国は世界エネルギー需要増大の70%を占めています。下記の表をご参照ください。
同レポートでは、地域ごとの燃料消費または炭素放射量の増加率も取り上げられ、インドの電力消費の伸び率と主な原因を下記のようにまとめています。
再生可能エネルギーが「有望」であるワケ
2015年のパリ協定(COP21)に締結したインド政府は、2022年までに容量175ギガワット(GW)の再生可能エネルギーを開発すると発表しました。目標再生可能エネルギーの容量の内訳は下のテーブルのようです。
7年間に再生可能エネルギー容量を4倍に増大することは野心的な目標であるとの指摘も有りますが、世界の最も競争力の強い入札であるインドの再生可能エネルギー市場は絶対的には驚くほど良い成果を挙げています。
2017年にインドの太陽エネルギー市場は2倍に拡大し、毎年8GWの光発電能力容量を構築しています[2]。これは記録的な数値です。太陽エネルギーは、再生可能エネルギー移行における目標容量の大部分を占めています。現在では、新しい石炭プラントよりも、大規模太陽発電所への投資が増えています。しかし、消費者による屋上太陽光発電システムの設定は、約2.5GW。近い将来に40GWの目標に届かないです。下記の表は再生可能エネルギーの目標と実際の設備容量を比較しています。
途上国におけるエネルギー移行については、エネルギー界の研究機関ブルームバーグニューエエナジーファイナンス(BNEF)より発表された「Climatescope」レポートも参考になります。同レポートによると2017年には、世界中ほとんどのゼロカーボン電力容量は途上国で構築されており、新しい石炭プラントは低下傾向だとの指摘があります。インドでも、新しい石炭容量の構築は2012年~2016年の間は毎年17GW容量追加されていましたが、2017年には4GW容量追加に低下しています。
2022年の再生可能エネルギー利用目標を達成するため、インド政府の新エネルギー・再生可能エネルギー省は太陽光プロジェクト向け80GWまたは風力プロジェクト向け28GW、2つのプロジェクトにおいて入札を行うと発表しました。インド市場のプレイヤーは価格に非常に敏感です。インドは、再生可能エネルギープロジェクトの競争が非常に激しい国として知られています。オークションの各ラウンドに参加する事業者数は、大幅に募集枠を超えていて、わずか数ルピーの差で勝者と敗者が決定されてしまうのです。この激しい競争環境のもとで、再生可能エネルギー開発は急成長し、また低価格を実現できるため、2027年までの再生可能エネルギー容量の目標を215GWに設定し、石炭の容量を11GWに削減することができると考えられているのです。
目標達成に向けてインド政府は既存のクリーンエネルギー政策の向上、または、再生エネルギーオークションのプロセスを強化しようと尽力しています。上記の表が示しているように本年度と2020年度には、太陽エネルギーと風力エネルギーのオークションを増強する予定です。
エネルギー節約からエネルギー効率へ
エネルギー効率の促進に向けて、インド政府の最も成功した政策は「UJALA」です。2015年にローンチした取り組みで、LED電球を普及させるため、電力省が管理する公営企業の合弁企業、エネルギー効率サービス企業、Energy Efficiency Services Limited (EESL) 、は膨大なLED電球の購買活動によって、価格を大幅に引き下げました。「UJALA」取り組み以前には、LED電球は310ルピーだったものの、現在政府の助成金も含めて85ルピーになっています。
「UJALA」取り組みはLED電球利用の普及に、大きく影響しました。大規模購買契約が提供されたことで、エネルギー事業者は規模の経済の恩恵に目覚め、価格の引き下げを促進、エネルギー効率の改善を実現します。
2018年に世界銀行は、エネルギー効率サービス企業より「エネルギー効率スケール・アップ・プログラム」に3億米ドルを投資しました。このプログラムは、「融資、国民意識、技術的なまたは容量的なハードル」の課題に取り組み、エネルギー効率改善のための仕組みづくりのために設定された、2030年までの炭素放射削減目標実現に向けた政策の一つです。
火力発電所、肥料産業、セメント業のようなエネルギー集約型の産業におけるエネルギー効率を促進するために、市場全体としてのエネルギー効率交換システム「PAT」も注目を浴びています。PATとは、「実行 (Perform)・実現 (Achieve)・交換 (Trade)」の略。エネルギー消費を削減するために節約されたエネルギーを、市場ベースのメカニズムを活用して、過剰エネルギーの交換ができる取り組みです。一石油換算トンで計算し、節約できたエネルギー量を数値化して認定エネルギー監査員より「エネルギー節約証明書」が交付されます。節約量の目標を超えると組織は証明書を入手します。節約目標を達成できなかった組織に証明書を販売する、または将来の目標の達成に向け活用することもできます。
PAT取り組みの第一フェーズは終了し、エネルギー効率を促進する取り組みとして良いスタートであると評価されている一方、第二フェーズでは取り組みの透明性を向上させることや、エネルギー節約を実現するため規則を厳格化し適用していくことも求められています。
エネルギー産業におけるビジネス機会
人口や国の経済規模によって世界的に炭素放射を減少させていくという議論において、インドのエネルギー戦略は重要です。経済発展の実現し、また増加し続ける人口に対応していくためには、エネルギー消費削減の限界やハードルがあります。数的な目標を達成しているかどうかより、業界におけるトレンドを理解することが重要です。以下のように市場のトレンドをまとめています。
市場全体のトレンド
- 民間企業の参入によってエネルギー市場は活性化する
- 世界銀行の見通しによるとインドのエネルギー効率市場は毎年120億米ドルで評価されている
- 発電容量は加速し、電力供給ポテンシャルは経済的な需要を上回る
- 低価格によるプレッシャーは技術、調達活動、設立に影響を及ぼす
- 融資メカニズムの強化が必要である
- 新しい産業を生み出す
- 電力量計(メーター)・消費データにおけるイノベーションは電力需要に影響する
- 新しいビジネスモデルは既存のエネルギー市場を一変させる
以下の通り期待できる技術・産業・取り組みであり、今後同産業の進展を追跡して行きたいと思います。
注目を浴びている産業・取り組み
- 電気自動車(二輪車)+ 関連の技術、インフラ
- スマートエネルギー供給網の技術
- 海外出資を促進する取り組み
- ビル建築業界におけるクリーンエネルギーの参入
- 非常にエネルギー効率の良いエアコン+その他電気製品(天井ファン、冷蔵庫など)
- 非常にエネルギー効率の良い農業用ポンプ、トラクター、産業用モーター
インドは経済の発展によるプレッシャーが上昇する一方、再生エネルギーおよびエネルギー効率における進歩は称賛に値すると、あらゆる専門家が唱えています。この先数年にわたってインドのエネルギー産業はますます高度化する見込みです。
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参考資料:
- International Energy Agency. Global Energy and CO2 Status Report. March 2019.
- Bloomberg NEF. Climatescope. November 2018.
- Tongia, Rahul. Understanding India, its energy needs and ambitions, and the global implications for carbon emissions. September 18, 2018.
- Word Bank. Press Release. August 2018.