インドを訪ねたことがある方が気付くように 、お米やレンズ豆、スパイスといった食材から石鹸、モップ等の日用品に至るまでを販売する伝統的な店舗は、高所得層の地区であれ、スラム地区であれ、インド中どこでも普及しています。そしてこの伝統的で小さな未組織の「キラナ」店舗は、大型スーパーやチェーン店よりもはるかに多く存在し、全国では約1500万のキラナ店舗があると推測されています。
最近キラナ店舗は話題を呼んでいます。世界の有名な事業へ投資をしているシリコンバレーに位置するベンチャーキャピタル企業 GGV Capitalおよびその他の有力投資家は、キラナ店舗の効率向上を支えるスタートアップに投資しています。その投資は彼らの地域にEコマース事業、そして融資を行うシステムを強化するためだと言われています。
この数年間、近代的な大型スーパーやチェーン店やECが進出してもキラナ店舗は活発な商売を続けています。Indian School of Businessに属する小売専門家Siddharth Singh教授によると、急速な都市化が行われていても伝統的なキラナ店舗はなくならないと言われています。Singh教授が行ったリサーチでは、キラナ店舗と大型スーパーにおいてある大手日用品の約10万件販売取引を分析しました。その結果、地方都市または田舎では、キラナ店舗と大型スーパーにおける月ごとの販売の差は減少しつつあり、そして大都市を含む全ての地域で収益性が向上し続けています。このリサーチでは、通常に反して既にキラナ店舗の収益性は、大型スーパーの収益性より高いと報告されています。
キラナ店舗の特徴
- 顧客と友好関係を築く
キラナ店舗は、ローカルコミュニティと強い絆で結ばれています。個人顧客との関係を構築しているため、個人のニーズに応えて特別な注文、または特別な量を発注します。更に掛け買いのオプションもあり、個人顧客にパーソナライズされたサービスを提供しています。
そして顧客は、このようなサービスの利便性そして比類なき価値によりキラナ店舗と親善を深めています。
- 柔軟性がある
上記の通りキラナ店舗は、顧客が求める品物が大量であれ小量であれ個人にカスタマイズされたサービスを提供しています。シャンプーのような日用品、お菓子などを少ない量でも販売し、低所得者でも購入できるようにしています。
また値引き、あるいはいくつか商品をセットとして販売し、あらゆる販売促進も行われています。
- 進取の気性がある
キラナ店舗は、2017年に導入された物品・サービス税 (GST) に従うために、店舗販売時点情報管理(POS) のデジタル化に積極的です。デジタルワレットも意欲的に生かしていて、キャッシュレスの取引も可能にしています。
大型スーパー、EC事業による競争を承知しつつ、顧客のニーズを満足させるために様々な取り組みを強化しています。その一方で、Reliance Retail のような大手小売企業は、巨大なキラナ店舗のネットワークにおける大きなビジネスチャンスを見出そうとしています。
キラナ店舗のアップグレード
大手企業 Reliance は、中国で小売業の変革を導いたAlibaba社のように2023年までに50万店のキラナ店舗のデジタル化を目標としています。Reliance Jioが通信業に導いたデータ革命での成功を、小売業でも再現しようとしています。「ニューコマース」と呼ばれる取り組みであり、Reliance Retailが運営するEC事業、近所ストア、スーパーマーケット、ハイパーマーケット、卸売事業とキラナ店舗を繋げるハイブリッド・オンライン・オフラインモデルを実現する予定です。それはAlibabaが導入したオンラインとオフラインを繋ぐマーケットプレスに似ています。
Reliance社の目的は、全国の小売ネットワークを強化するためにキラナ店舗をサプライ・チェーンに統合してラスト・マイル配達の役割を果たすパートナーとしてプラットフォームに加えることです。また一方で、Reliance Jioはキラナ店舗の個人運営者向けデジタルPOSを開発し、低価格でシステムを販売します。
そしてオフラインであるキラナ店舗の統合によって、Relianceの新しい小売プラットフォームでは、顧客のオフラインの購入に関するデータも収集することになります。その上、プラットフォームは同社のEC事業とキラナ店舗を結ぶため、顧客はオンラインで商品を検索し、決済し、実際の店舗へ商品を取りに行くことを可能にしています。この制度によってローカルな需要に応えられる上、Relianceによるコストの削減が実現します。更にキラナ店舗のおかげでReliance Retailが導入されていなかった地域にもアクセスが可能になります。
田舎、大都市、地方都市での多様な市況の背景に、進み続ける都市化 、所得の増加、10億人市場のインターネット利用率の増加があります 。地方に暮す消費者が、インターネットから情報を得て生活の質を向上させたいと野心に駆られることは、小売業の需要に大きな影響を与えています。このような理由から、インドの小売業は変動的な状況であると考えられています。この波にさらされて伝統的なキラナ店舗も向上心に燃えて意欲的にテックを採用しようとしています。そして彼らはこれからもパーソナライズされたサービスを提供し、顧客と信頼関係を築き続けます。キラナ店舗は、インドのローカルコミュニティを支えるバックボーンと呼べるでしょう。
参考資料:
Singh, Siddharth. “Kirana Stores Are Here to Stay: FMCG Strategy for Indian Retail.” ISB Insight, October 2018.
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