インドの伝統的なスナックやドリンクの例としてサモサ、バナナチップス、辛い味のナムキーン、ラッシー、マンゴージュース、シャーベットなどが挙げられます。こういった飲食物はインド人のアイデンティティーの大部分を構成し、感情にアピールすると考えられます。従来インドの伝統的なスナックやドリンクはパッケージングやブランディングされてなく、家庭で作るほか、小さいお店で作りたて を量り売りされたものしかありませんでした。インドのスナックは国の多様性を反映し、様々な材料や味に特徴付けられています。
マーケットリサーチ会社Mintelによると、インドのパッケージスナックの市場は2016年にインドルピー2千億産業であり、20.4%の成長率で急上昇していると言います。2011年〜2012年にインドのある小さなローカル事業が全国規模の拡大を促す取り組みの元で、アメリカの有力なベンチャーキャピタル企業 Sequoia Capitalは、小さなスナック企業 Prataap Snacks(運営社Yellow Diamond) と Paper Boat という飲み物ブランドを製造するHector Beverages に投資しました。投資を受けた両方の企業は、消費者から得たインサイトに基づいた革新的なプロダクト開発やマーケティング戦略をとって前例のないブランドを構築し、急成長を続けています。
消費者インサイト
アメリカの大手お菓子会社、モンデリーズ・インターナショナル (Mondelēz International)は、2019年後半にインドを含めた世界の12ヵ国、約6,000の大人を対象にした間食行動について調査を行いました。その「State of Snacking 2019 Indian Consumer Snacking Trends」のレポートでは、約500人のインド人が調査の対象になり以下のようなインサイトを収束しました。
- 一般的にインド人は食事より間食を多く摂取し、間食は食事を代わりにしています。食事と違って間食は個々のニーズに応えるとして考えています(食事は同席者を考慮する行動と考えます)。
- インド人にとって食べ物は自分のアイデンティティーの大部分にあたります。間食は自分の食文化を定義する手段であり、または、その他の食文化を探究することにつながると言います。欲求を満足させつつカロリーの摂取を抑えるために健康的な間食を求めていると言います。
- バランスの取れた間食を摂取する事を大切にしています。
- 伝統的なスナックは幼い頃の懐かしい思い出を呼び戻します。間食によりノスタルジーに浸ります 。
- ストレス解消する手段であり、忙しい時の休憩になります。調査の対象者の30%はストレスまたは疲労を感じる時に間食を取ると言います。
- 飲料は間食の代用として用いられています。
短い間に間食・飲み物市場のリーダーに上り詰めた Paper Boat と Prataap Snacksは、消費者から得たインサイトを解釈し、革新的なプロダクト開発からブランディングに至るまでの優位を占めています。両者の取り組みを見てみましょう。
インサイトの解釈による革新的なプロダクトまたはマーケティング戦略
懐かしい味わいを現代のパッケージングに反映する
90年代に導入された海外(主にアメリカのPepsiCo社)のポテトチップスは当時のブランド化されていない間食市場に大きな影響を及ぼしました。消費者は清潔で魅力的なパッケージングに惹かれ、業界標準として広く受け入れられました。
2009年に設立した Prataap Snacks は伝統的な間食(ポテトチップス以外のもの)をインポートスナックのように魅力的なパッケージで提供し、新しい市場を開拓しました。北インドのインドール市に位置する Prataap Snacks は、従来、地方や小さい町(インドール市のような町)では大手企業が無視されていた為、北東インドに注目し強力な流通ネットワークを構築しました。Prataap Snacks社の商品は5インドルピーで安価な上、その他のブランドより食べ物の量が多く、地方での消費者の価値意識に応えています。
お祭りまたは特別な習慣(断食)のスペシャルな飲み物を導入、または、地方色を称える
イスラム教のエイド祭りをきっかけに Paper Boat からアップルジュースとライチジュースのシャーベットとバラのドリンクが販売されました。同様にヒンドゥー教のお祭りには断食する期間の為の特別なドリンクを提供しています。
お祭りが重視されているインド人消費者にとってブランドは自分のお祝いの時、または断食する時に思い出の一部として、感情に訴えています。
あらゆるマーケットセグメントを活用
地域による味わいまたは食材の多様性によって地方限定の味を販売します。こちらの Prataap Snacks の商品は北インドの地方で特別に販売している物です。
そして Paper Boat も地域によって商品を区分しています。更に販売ルートもセグメント化しています。
例えば、飛行機またはホテルに販売する限定な商品。このようなマーケットを対象に、より小さいセグメントに分けて、新鮮なマーケティング戦略やプロダクト開発につながっています。
ブランドのストーリーを重視する
感情へ上手く訴えるパワーは良いブランドストーリーにあります。「Drinks and Memories」のタグラインを持つ Paper Boat は懐かしい時代を呼び起こすストーリーを広告にも活用しています。
右のイラストは30年前まであったインド鉄道システムの特徴を描いています。列車の外に貼り付けて指定席の名簿にこの親子は自分の名前があるかどうかを確認しています。現在の40代の大人は、幼い頃の長い休みの列車旅の記憶を呼び起こします。
本物のエモーションはブランドの信頼性につながり、パワフルなツールであると考えられています。広告や宣伝に大きな金額を使わなくても、感情に訴えるストーリーがあれば十分だと思われています。
従来ブランドを持たなかった間食市場からブランドが競争する市場への移行では、販売品よりブランドの属性が重要になります。イノベーションを受け入れやすいシステムが事業の枠組みの中にあるため 、Paper Boat と Prataap Snacks は飲食業界に革新的な影響を及ぼしていると考えられています。革新的なプロダクトや戦略を作るために両方のブランドは消費者から得るインサイトを参考にしました。Sequoia Capitalによる投資は、これらのブランドの優位を証明しています。最終的に人の感情に訴える事業は商品を超え、その可能性は無限であると考えられます。
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