一時期、動画共有アプリTikTokはインドで爆発的な人気がありました。2020年前半にそのピーク時には2億人ユーザーに達成し、中国を除く世界のトップクリエーターの15人はインド人でした。
単なるソーシャルメディアプラットフォームではなく、TikTokは従来インターネットに現れない地方の経済的に困窮している人々、下層カーストである人々の自己表現を可能にしました。TikTokの導入によって、下層の人々はインドにおけるデジタル化に初めて参加することができ、それに加えオンラインクリエーターとしてキャリアを築くことも可能になりました。
この新しいクリエーター層は田舎にいる貧困層としてコンテンツを投稿し、同じ状況下でいる大勢のフォロワーを引き付けました。それに伴い広大なインド の農村市場を狙う目的でPepsiをはじめ、日用消耗品企業はTikTokを利用して全インドにいる地方の若者を対象した戦略を実行しました。
TikTokプラットフォームで大成功を収めたクリエーターの兄弟、サビトリとサンタンの例を取りあげます。この兄弟は家の泥壁の小屋のそばで雨であれ、洪水であれ、どんな状況でも笑顔で踊っている動画を投稿し、3年間に渡って270万人のフォロワーを獲得しました。
聴衆の増加につれて兄弟は高い広告収入を得て、TikTokでセンセーションになりました。このように2017年に導入されたTikTokは驚異的な速さで田舎にいる若者達の間で人気を博していていました。
しかし、2020年中旬に中国と緊張が高まる中でTikTokを含め58件の中国のアプリが廃止されました。即時にインドの地方のタレント、労働階級からのクリエーター、貧困層の聴衆達はインターネットの世界から削除されてしまいました。
2020年前半までインドはTikTokの主要な成長原動力であった
出典:Sensor Tower, Times of India
2017年のローンチから2020年6月の禁止まで | 6.11億ダウンロード回数 (世界の 30.3%) |
インドでダウンロードされたアプリのOS版 | アンドロイド |
インド地域言語で利用可能である | 15つ言語 |
田舎のユーザーを引きつけるTikTokのデザインの特徴
インドの幅広い人口の興味を引くTikTokアプリは、以下の賢いデザイン機能を生かして大きく進展したと考えらます。
- 15秒の短い動画:低額スマホとデータプランを利用する幅広い人口に向けて適切な機能である。簡単にビデオを撮影し、アップロードができる。その一方、Youtubeプラットフォームでのクリエーターはより洗練されたスマホと高いデータプランを購入する必要があり、その上、田舎のシンプルな生活を表現するのには短い動画形成が好まれる。
- 直感的なUXデザイン:アプリのUXデザインは教育を受けていない人々また初めてスマホを操作する層にも容易に使用できる。
- 地方の熱狂的な音楽ライブラリー:動画のサウンドトラックになる音楽は地方で人気の音楽が提供されていた。地域にいるユーザーはこの特徴を非常に楽しみ、自分で撮影した動画に合わせる豊富な音楽を選べられることは、特にこのアプリが愛されるきっかけであった。その一方、インスタグラムやユーチューブではインドの主流音楽、インド映画産業のボリウッド映画のサウンドトラック、また欧米音楽しか提供がなく地域のヒット音楽まで揃えていなかった。
インスタグラムリールの登場
地方で人気をさらったTikTokと競争したインスタグラムは、インドのエリートユーザーに向けていたと思われます。お金、教育へのアクセスがある人々また現代的なライフスタイルを送る層はインスタグラムで海外旅行、高級料理と言った気ままな生活スタイルを描く都市風のコンテンツを投稿し、洗練されたライフスタイルに憧れを募らせています。
TikTokが禁止された直後、インスタグラムの短い動画機能「リール」は迅速にTikTokの空白を埋めることに成功し親会社Facebookの利益につながりました。ただし、Facebookはインスタグラムを通して中間・上流層を引き寄せることを重視し、厳しくコンテンツの基調を打ち出しています。インスタグラムのアルゴリズムは不鮮明な動画、ロゴやウォーターマークが写っている動画、また、低価格スマホに搭載されている機能である画面周囲のボーダーが表示された動画を推薦しないと発表しました。これによってインスタグラムはアプリへの高い参入障壁を設けていると考えられます。
その結果、TikTokが提供した多様なコンテンツ、また、あらゆる文化文脈からのクリエーター達が参加できるコミュニティーの代わりにインスタグラムのリールでは精彩を欠いた野心的なコンテンツがあふれて、中流階級の生活のあり方そのものであると思われます。中間層の外にいる経済的に困窮している層にとって手が届かないものばかりが並んでいます。
しかし、2020年7月にローンチしたインスタグラムのリールはうなぎ上りに成長しています。インスタグラムの2.1億人のアクティブユーザーは日々600万の短い動画をアップロードしています。更にインド系の動画共有プラットフォームも登場しています。加えて地域言語ソーシャルメディアのShareChatの動画共有プラットホームMojでは、日々250万動画がアップロードされています。
TikTokが生み出したクリエーターはインスタグラムまたユーチューブで活躍し、試行錯誤してコンテンツを作成しています。彼らによると聴衆は増加しているが、TikTokと比べるとプラットホームのセンスやフォロワーからの期待が異なり、より洗練されているコンテンツや見栄えの良いクリエーターが求められているといいます。
動画共有プラットホームとして現在、ユーチューブの人気が上昇しつつあり、地方ユーザーに向けたSnapchatも再熱しています。インドの多様な社会の鏡であるユーザー作成コンテンツ市況は常に変化していくと考えられます
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